会長のごあいさつ

経営史学のいっそうの発展をめざして

経営史学会会長 粕谷誠

 

 2021年1月に沢井実前学会長のあとを受けて、経営史学会会長に就任いたしました。現在726人の会員を擁する本学会のいっそうの発展のために、全力を尽くす覚悟ですので,会員の皆様のご協力をお願いいたします。

 日本に経営史学会が誕生してから50年以上の時間が過ぎ,経営史学会も発展してきました。その一方で,経営史学会は多くの挑戦に直面していますが,ここでは以下の2つがとくに大きな課題だと認識しています。第1はグローバル化の進展です。世界中への移動が容易になり,研究交流が進み,資料のデジタル化がものすごい速さで進み,世界中の史料がみられるようになっています。新型コロナウィルス感染症が蔓延すると,オンラインの会議のツールが急速に普及し,時差の問題は残りますが,世界中の人と話ができるようになりました。しかしグローバル化はそれにとどまりません。ミクロ経済学の進展により,企業発展を分析するツールが豊富になり,企業や制度を理論的に考察できるようになり,安易に事例を一般化することもさらには国の特殊性を安易に強調することもできなくなりました。より多くの資料を使って,広い視野から考察することが求められるようになったのです。これを一人の努力でおこなうことは困難で,日本のそして世界の研究者と共同して取り組む必要があるでしょう。2020年に開催予定であったWorld Congress on Business Historyはオンラインで2021年9月に開催されますが,大きな機会となるでしょう。

 第2は少子高齢化の進展です。ベビーブーマーの引退が進むなかで,若い研究者の興味を喚起し,『経営史学』およびJapanese Research in Business Historyに素晴らしい論文を掲載するという役割を果たしていく必要があります。実証密度の高い研究が重視されるのは当然ですが,日本語で発表されるものであっても,日本の枠にとらわれることなく,国際的・理論的なフレームワークを重視して,グローバル化に対応していく必要があるでしょう。それには新鮮な問題意識にもとづく,斬新な視野を持った若い研究者を発掘する努力が必要ですが,同時に現実の問題に直面している実務家や理論的なフレームワークに長けている経営学者との対話もより積極的におこなう必要があるでしょう。

 最後になりましたが,経営史学会はこれまでも法人会員やさまざまな機関から日常の活動についてサポートしていただいてきました。これらのご支援に深甚なる感謝を申し上げるとともに,新型コロナウィルス感染症で経済環境は厳しくなっていますが,ますますのご支援をお願いいたします。そしてそうしたご期待にこたえるべく,会員の皆さんのご協力を得て,経営史学会の活動を一層盛んにしていくために全力を尽くす所存です。